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セノーテ日記

防衛機制と合理化・逃避について、実例とともに解説

2025.06.01 その他

防衛機制と合理化・逃避について、実例とともに解説

私たちは日々、「〜したいな(したくないな)」という気持ちと「〜しちゃだめだ(しなきゃ)」という気持ちのバランスをとりつつ生活しています。

このバランスはまるで子どもと親の関係に似ています。

例えば子どもは「野菜は苦いから食べたくない」と泣くときがあります。

このときはイド(エス)である「なんだか苦いしイヤ!」という思いと、超自我である「野菜もしっかり食べようね」という教育をする親の存在に挟まれ、「食べなきゃお母さんに叱られる…」という葛藤が生じ泣いていると考えられます。

この葛藤こそが自我と呼ばれる部分であり、自我には防衛機制という調整機能が備わっています。

今回は防衛機制、そして防衛機制に含まれる合理化と逃避に関して実例をもとにお話します。
※その他の防衛機制についてご興味のある方は、

  • ・防衛機制と幼児退行について、実例とともに解説
  • ・防衛機制と幼児退行について、実例とともに解説~No.2~

もご高覧ください。

防衛機制とは

防衛機制とは、不安や不快といった心理的ストレスが生じた際に、自分の心を守るために働く無意識の反応であり、誰にでも備わっている自我機能のひとつです。

冒頭の野菜が苦手な子どもの例であれば、野菜を食べること=不快=心理的ストレスとなります。

しかし、精神的に未成熟な子どもや、大人であっても精神的な危機にある方においては、心のバランスを保つ働きである防衛機制が適切に機能せず、大きすぎるストレスに対して、周囲が理解し難い反応をみせる場面があります。

防衛機制のひとつとしての合理化

防衛機制にはいくつかありますが、ここでは、その中の「合理化」「逃避」に関してお話したいと思います。

合理化した状態として有名な例に、イソップ童話の「酸っぱい葡萄」があります。美味しそうな葡萄を見つけたキツネが、食べようとしても手が届かない高所にある美味しそうな葡萄に対して「どうせ酸っぱいに違いない」と自分を納得させるお話です。

極端だと思われるかもしれませんが、私たちの生活でも

  • ・旅行予定の日に体調を崩したが、「行っても疲れていただけ」と自分を慰める。
  • ・見たかった映画を公開期間に見逃したが、「どうせそんなに面白くない」と決めつける。
  • ・財布を落として悲しいはずなのに、「新しい財布を買えるチャンス」と捉える。

など思い当たる節もあるのではないでしょうか?

合理化は、自分にとって不快な感情を生じさせる出来事に対してもっともらしい理由をつけることで不快感を減らしたり、納得したりする働きがあります。しかし、そこで考えを終えてしまうと出来事の本質を振り返る機会を損失し、成長に繋がらない、同じ失敗を繰り返すといったデメリットもあります。

似たような防衛機制に「知性化」がありますが、知識をもとに出来事を考える知性化に比べて、合理化は自分に都合のいい解釈をこじつけている点で違いはあります。

防衛機制のひとつとしての逃避

逃避は、自分にとって脅威や、不快を感じる出来事に対して距離を置くことで自身の心身を守ろうとする防衛機制です。一時的には安心感を得られても、問題を先送りにしているにすぎません。「失敗することが嫌だから挑戦しない」というように前に進む機会を損失することにも繋がりかねません。

合理化も逃避も自分の心身を守るための反応ではありますが、周囲から「言い訳、屁理屈、甘え」と誤解され、苦しみや悲しみを感じるという方もおられますし、「言い訳をしてしまう自分自身が好きになれない」「何度も同じことを繰り返してしまう」と自信を失う方もおられます。

合理化や逃避をしがちな自分と向き合った方に対して看護を行った事例を以下に紹介いたしますので、同じように悩む方や支援に関わる方への参考になれば幸いです。

【事例】合理化と逃避が生じている方への看護

対象者は、成人前期の男性です。単身生活をなさっている大学生でしたが、レポートの提出日や試験当日になると耐え難い腹痛が生じ、結果として単位取得が出来なかったことから大学を休みがちになり、適応障害の診断を受けるに至りました。自信を失い、大学を辞めて地元に戻ろうかとも考えておられました。

訪問導入時は、昼夜逆転の生活で自室の遮光カーテンは日中も締め切っておられました。入学時に買ったであろう専門分野の参考書は床に乱雑に置いてあり、「どうせ意味ないし」「面倒くさい」と1日の大半をベッド上でスマホを見ながら過ごしておられました。
言動から防衛機制としての合理化と逃避が生じていることが伺える方でした。

自宅は、大学という社会から逃避した先であり、彼にとって安心できる環境でした。
そのような自宅に招いてもらっている身として、脅威を与えないよう丁寧に関わることを心がけました。

関係を深め、そして彼の人となりを知っていくためにも、彼の好きなこと、心地良いと感じることから対話を行い、訪問を重ねる中で、小さい頃から、大学入学に至るまでどのような人生を歩まれたかをお聞きしました。

その中で、小さな頃から彼にとってアイデンティティになっていた勉学への自信が、大学での周囲のレベルの高さに打ち砕かれた体験があったことを話してくださいました。

レポートや試験という、自己を評価される場からの逃避、そして逃避してしまう自分に対しての合理化が生じていることについては、看護師から指摘するのではなく、対話を行う中で「なぜそうなるのか?」を都度尋ね、自ら考えていただきました。

元々知的好奇心が旺盛な方であり、彼のストレングスでもありましたので、新しい気づきがあれば評価することを繰り返し、彼自身の防衛機制に気がつくことに加えて、考える楽しさを体験していただくことに努めました。

再び大学には通うことはできるようにはなりましたが、思うように結果を出せない自分を許せないといった苦しさに直面化することにも繋がりました。

その都度、より健康的な防衛機制にシフトすることや、彼の持つ合理化という防衛機制をストレングスとして活用することを心がけました。

「単位をギリギリでも取れるということはある意味運がいいって評価されるかもね」など、こちらからあえて極端な合理化を提示した際には、「それは合理化しすぎでしょう。けどそう思うと気楽に試験受けれそうです」と笑いながら返答をしてくださいました。

このように、笑いもユーモアという防衛機制のひとつです。自分と向き合って、成長していくなかで防衛機制もより成熟したものへと変化していく彼の姿をみて支援させていただく身としても頼もしく思えました。

ご相談について

思春期から成人前期は心も体も、生活する環境も大きく変化する時期であり、先の事例の彼のように家族にすら言えない悩みや葛藤を独りで抱える方もおられます。

そんなときは相談からで構いませんので、フリーダイヤル(0120-56-1834)までお電話ください。

精神科看護に精通した看護師はもちろんのこと、思春期保健相談士も多数在籍しておりますのでお力添えできれば幸いです。

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

セノーテ訪問看護 福岡東ステーション
寺中 祐人

この記事の監修者

寺中 祐人

福岡東ステーション

寺中 祐人

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